人生100年時代と定年退職後の過ごし方は永遠のテーマ
2021年4月の「高齢者雇用安定法」改訂施行により、雇用確保義務が65歳へ引き上げられ、70歳までの就業機会の確保が努力義務となった。いずれは雇用確保義務が70歳へと引き上げられるのも時間の問題であろう。またこれに伴い、2022年4月からの厚生年金改革における要点の一つとして、65歳未満の高齢者の働く意欲を押し上げる目的で、在職老齢年金の支給停止条件を65歳以上と同等に賃金と老齢厚生年金の月額合計を「47万円」に緩和するという仕組みがあげられる。従来の60歳定年を前提とした働き方はどんどん変わっていき、おのずと定年後という期間やその過ごし方も、今後大きく変わっていくのではないか。
「60~79歳定年後の就業意向・就業実態調査」(2020年ディップ総合研究所)によれば、定年時に「どちらかと言えば」も含めその後も「働きたかった」人は51.7%、一方で同様に「どちらかと言えば」も含め「働きたくなかった」人は35.4%という結果である。70歳以上の方にとっての定年時に「人生100年時代」はまだ馴染みもなく、この世代を含む本調査結果はある意味妥当な内容であろう。私も60歳の定年を迎えるにあたり、定年後の人生をどう送りたいかと考える時期があった。その際の個人的目標としては、「人生100年時代、定年後も残りの人生はまだ40年もあり、二周目の人生も自分が元気に過ごしていると実感できるよう、どんな形にせよ働いていたい」ということであった。私は多くの人が同じような事を考えていると思い込んでいたのだが、最近何人かの知人と話をすると、思いのほか「もう働きたくない」という人が多いのである。定年退職しても働き続けるものと思い込んでいた私にはちょっとした驚きであった。ところで上記の実態調査から、定年退職後の実際の就業状況を年齢別に見てみると、年齢を重ねると共にその割合は低くなるものの、60~64歳の「定年後も働きたかった」人に関しては91%が何らかの形で就業している。一方60~64歳の「定年後は働きたくなかった」人のうち、38.7%もやはり就業しており、4割の人がリタイアはしたいが働かざるを得ないという現実も垣間見える。「働きたくない」と「働かなくて良い」の違いはそう簡単でもなさそうなのが今の高齢者の現実であろうか。では人生100年時代において生きていることの意味とはいったい何であろうか。恐らく私が述べた「元気に過ごしていること」と言うのはある意味誰しもが感じることであろう。一昔前とは違い、今の70代は以前の60代と同様と言うように10年程は人生の活動期がシフトしており、元気に活躍する高齢者は街でも多く見かける。80歳以降を元気に過ごせるか、或いは言葉は悪いがよぼよぼの年寄りとして生きるかは、正に60代から70代をどう過ごすかにかかっているのではないだろうか。2019年の平均寿命は男性が81.41歳、女性は87.45歳と延びており、また日常生活に支障なく生きていられると言われる健康寿命は男性が72.68歳、女性は75.38歳とその差は調査を開始した2010年以降縮小傾向が続いている。厚労省は、健康寿命が延びた要因として、平均寿命の延びや要介護につながりやすい脳梗塞などの脳血管疾患や関節疾患の減少、高齢者の社会参加が広がってきている点などを挙げている。こう見てくると、70歳までの雇用確保が義務化されれば、好むと好まざるとにかかわらず働くことによる、社会参加の増加は健康寿命の延びにつながる重要な要素であり、あながち「働きたくないけれど、現実は働かざるを得ない」というネガティブな就業より、「人生100年時代を元気で生きていくための社会参加」と思えば、定年後は働きたくなかったという3割の人にとっても、働くことをいくらか前向きに捉えられるのではないだろうか。
今後も医療の進歩により平均寿命は確実に延びていくであろう。一つの事例として、最近の研究によれば「老化は病気の一種であり、治療や予防ができる可能性がある」と考えられるようになってきている。実際にゾウ、カメ等老化しない生物がこの地球にも存在する。要は老化とは老化の原因となる老化細胞が体内に残るか破壊されるかということのようだ。この老化と言う病を治療することが出来れば、老化からくる様々な病気(脳梗塞、心臓病、がん等)を回避することができるようになり、平均寿命は勿論のこと、要介護につながる病気の減少により健康寿命も伸びていくことが大いに期待できそうである。但し、これで人が不老不死を手に入れるということでは決してない。寿命は延びるが延びた寿命をどう生きるかとそれとともに定年後にどう働くかは人生100年時代を生きる私たちにとって、永遠に無くならないテーマになりそうである。